蓮舫と稲田朋美の退場


稲田氏と蓮舫氏、「同時辞任」の偶然と必然
未来の女性首相候補は「忠実な尻尾」となった

【東洋経済】2017年07月30日
河崎 環 :フリーライター/コラムニスト

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「籠池夫妻、詐欺容疑で事情聴取、大阪地検へ」

「今井絵理子参議院議員に、神戸市会議員との不倫疑惑」

7月27日木曜日、世間ではそろそろと夏休みを謳歌し始めるビジネスマンも出てくるころ、朝からニュース界隈が騒がしかった。そうこうするうちに飛び込んで来たのは「民進党蓮舫代表、辞意表明へ」、それから数時間もしないうちに「稲田朋美防衛大臣、辞任か」と来て、メディア関係者には何とも忙しい1日だった。

春以来の失言、失態続きにもかかわらず「安倍さんの秘蔵っ子」として絶対に守られて来たはずの稲田氏辞任は、政権としては痛手の大きい”挫折”。組織レベル、個人レベル問わず自民をめぐる細かなスキャンダルが最近とにかく数撃たれ、与党内でも支持率低下への不安が高まる中、8月の内閣改造まで待てないとの意見が強くなってここへ至った。最後のほうは稲田氏の地元でも不支持感情が広がる状態となり、メディアは”チリツモ”で結果を引き出した。

リベラルメディアのみならず保守メディアまでが手のひらを返して参戦していた稲田叩き、そして特に右派による二重国籍問題追及の手が緩められることのなかった蓮舫叩き。それらが奇しくも同時期に「結実した」とでもいうべき事態に、新聞・週刊誌・テレビ・ネットなどそれぞれが攻撃を続けていたメディア戦が一斉に「撃ち方やめ」となった瞬間を見た思いだった。

追い込まれた「秘蔵っ子」

この春、稲田氏は常に話題のどこかにいた。南スーダン国連平和維持活動(PKO)をめぐる国会答弁や森友学園・籠池理事長との関係をめぐる答弁の撤回と、続く不自然な釈明の繰り返しに、保守系メディアまでが怒り心頭となって「防衛大臣不適格」と稲田批判のキャンペーンを張るほどだった。

だが稲田氏は出自からして安倍首相肝いり。政界入りしたのは、安倍首相本人からスカウトされたのがきっかけだった。「国防」スタンスに齟齬のない安倍チルドレンの筆頭、そして将来の女性首相候補として、そのキャリアや政界内の人望に比して過保護なまでに守られてきたとの感がある。

結果、小池百合子氏が7月28日に盛岡市の全国知事大会を終えた後、全国紙をはじめとする報道陣に対して答えた「ここに至るまでの流れについては若干、スピード感がなかった」とのコメントが示唆する通り、稲田氏の辞任は傷が大きく深くなってからだった。そして皮肉にも「なぜ首相は稲田氏をそんなに大切に守るのか」と責め立てたのは、辞意表明2日前の蓮舫元民進党代表だった。

水面下のリーク合戦に踊った世間

思い返すと、南スーダンPKOに関する国会答弁での失態は本格的な稲田叩きの皮切りとなったが、その後、大小のスキャンダル投下も加熱した。水面下のメディア攻防戦、リーク合戦が存在した。大臣である稲田氏の各失言問題や森友問題、加計問題など、自民党組織・政権への攻撃が加熱する中、それに比べて話題のレベルとしてはかなり公共性の低い、同じ自民党の明らかに病んでしまった女性議員の絶叫暴言や、「総理に最も近い」と言われたジャーナリストの準強姦もみ消し疑惑、そして今井絵理子参議院議員の醜聞までが市場へ供給されたように思える。

それら一つ一つはセンセーショナルでワイドショー的な関心を呼ぶ話題であるため、メディアは投げられた餌に向かって一斉に走り出してしまうのだが、そのたびに自民党への攻撃は組織から個人への攻撃に転じて、政権への集中砲火は一旦散らばる。問題が組織全体から個人レベルへ細分化され、そこでガス抜きとなる。

つまり、個々の件の事実としての正しさや倫理、社会正義とは別問題として、「そのタイミングで」「その角度から」「その話題が」メディアに放り込まれ火が付いたという「取り上げられ方」に政治的意図は確かに存在している。そう思ってあれこれのスキャンダルを振り返ってみるに、”意図”によって見事に世間みんなが踊らされてしまった虚無感だけが残るのだ。

だがいよいよ、安倍政権としてはここまで守り抜いて来たはずの稲田氏を守りきれなくなった。よりによって「ない」と言い張ってきた日報の存在が陸上自衛隊内部から明るみに出、批判が核心や本質に近づくと、逸らすために周辺で尻尾切りが行われる。

おそらく稲田氏本人さえも、防衛大臣というポストには力量としてまだ未達ではあるが成長の伸びしろ込みで任命されたと認識していただろう。大任を受け、指示に忠実に席を温めてきた秘蔵っ子の稲田氏ではあったが、”核心”を守るためには「かねてより(辞任を)考えていた」、辞任は自らの意思であった、と記者会見で繰り返しながら”尻尾”になったのだ。

安倍首相は自らの任命責任を認めた。だが「任命責任がある」のと「任命責任を取る」のは別の問題だというのが、いつものロジックである。

ニュースが重なった「偶然」?

森友学園問題で籠池理事長夫妻が事情聴取、そして自民党・今井絵理子参議院議員の不倫ときて、そして民進党では、蓮舫氏が「自身の足らざる部分に気づいた」と党運営に行き詰まり、辞任表明。最後にいよいよ稲田防衛相の辞任と、たまたまニュースが重なったにしてはあまりにも話題の多すぎた1日。

おかげで一つ一つの話題へのエネルギーは分散され、目立たなくなったのは、全員にとって運が良かったというべきか、それともそのうちいくつかには水面下で何らかの意図的な連続性があったのか。いずれにせよ、わずか1日の間に、女性活躍推進なるムーブメントの旗印でもあった両党の代表的な女性政治家が一斉に辞任するなど、神の手でも働いたような辞任劇であったことは間違いない。

自民・民進ともに、ここに来て都議選疲れ(?)が一斉に出て折れ、8月の内閣改造に向けて態勢の立て直しを図っているが、物語のプレーヤーとして華や毒のある女性政治家がごっそりと表舞台から消えた感じだ。残念ながらつくづく表舞台に立つ女性が好まれない国ではあるのだが、国政はまた女性政治家不在の周期に入ってしまうのだろうか。

一方は「将来の女性首相候補」として育てられていたはずだった。他方は「野党」なる概念をその身で体現するような女性政治家だった。主演級のプレーヤーを失った国政舞台。今夏、都議選後から内閣改造にかけて、両党にとって態勢立て直しのコストはひどく高くついたとみなすべきだ。

蓮舫氏・稲田氏「ダブル辞任」でも違いはある
自ら「ガラスの天井」に頭ぶつけた2人の今後

【東洋経済】2017年07月28日
泉 宏 :政治ジャーナリスト

28日、ついに、稲田防衛相が辞任した(写真:ロイター/アフロ)
安倍晋三首相による8月3日の「出直し人事」を目前にした27日、民進党蓮舫代表と稲田朋美防衛相の"ダブル辞任"が永田町を喧騒の渦に巻き込んだ。民進党の蓮舫代表は27日午後の特別会見で辞任を表明。これと同時進行で稲田防衛相の「辞任説」が急浮上し、稲田氏も28日に首相に辞表を提出した。この2日間、メディアは「盆と正月が一緒に来た」(大手紙政治部)ように汗まみれで永田町や霞が関を駆け回った。

蓮舫氏は「東京都議選敗北の責任問題をめぐる党内混乱」、稲田氏は自衛隊南スーダンPKO部隊の日報隠蔽問題での「省内混乱」が辞任の理由だが、「組織の統制ができなかった」点はまったく同じ。蓮舫、稲田両氏とも「女性政治家の星」だったが、ともにリーダーとしての「資質や見識」が問われての退場劇。どちらも"嫉妬の海"とされる永田町の男社会に存在し続ける「ガラスの天井」に頭をぶつけて奈落の底に落ちた格好でもある。

蓮舫代表は27日午後、国会内で開いた特別会見の冒頭に「代表を引く決断をした」と辞任を表明した。25日の続投宣言からわずか2日での代表辞任については、「いったん退いて、より強い民進党を新たな執行部に率いてもらうのが最善の策だ」と語った。白いスーツに青色のインナー、目を大きく見開いての明快な口調もこれまでどおりだったが、「昨日一日、熟考して決めた」という退任の弁には悔しさがにじみ、「首相を目指すことをやめるのか?」との意地悪な問いには「それに堂々と答える強さをまだ持ち合わせていない」と交わすのがやっとだった。

「小池氏は私の足りないものをたくさん持っている」

特別会見で、同じテレビキャスター出身で、いまや"首都の女帝"として「国政復帰で初の女性首相に」ともてはやされる小池百合子東京都知事との「違い」を問われた蓮舫氏は、「難しい質問ね」と苦笑しながら「私に足りないものを(小池氏は)たくさん持っている」と答えた。

昨夏の都知事選で「最有力候補」とされながら参院選での3選を選んだ蓮舫氏はその際、「私のガラスの天井は国政にある」と見得を切った。8年前の民主党政権発足とともに「仕分けの女王」として華々しくデビューし、端正な容姿とメリハリのある言動を武器に野党第1党党首となり「速足で頂(いただき)を目指した」蓮舫氏だが、今回の挫折の背景には「背伸びして頭をぶつけたガラスの天井の分厚さ」(首相経験者)があったことは間違いない。

蓮舫氏は、25日の「続投宣言」で明言した次期衆院選での東京の小選挙区からの鞍替え出馬についても、「考え直す」と事実上撤回した。自らの代表就任で「衆院と参院の壁を低くした」と自賛した蓮舫氏だが、もともと地元目黒の「東京5区」も含め、都内の小選挙区の党公認候補を押しのけての出馬が疑問視されていた。それもあって、「参院の蓮舫」に戻らざるをえなかったのが実情だろう。蓮舫氏は共産党との選挙協力についても「新執行部も引き継いでほしい」と路線の継承を求めたが、党内は「次期衆院選での民共共闘は永遠の野党への道」(保守派幹部)と冷ややかだ。

蓮舫氏の辞任表明を受けて新たな代表選びに向けて動き出した民進党だが、現時点で出馬に意欲を示しているのは1年前の代表選に出馬した前原誠司元外相(元民主党代表)と、実力者の枝野幸男元官房長官。両氏は崩壊した民主党政権の中核だっただけに「同じことの繰り返しで、国民の信頼は取り戻せない」(若手)と抜本的な世代交代を求める声も強い。だが、「結局は数の勝負で、党内各グループの合従連衡が進めば若手の出番はない」(民進党幹部)という実態は変わりそうもない。

しかも、1年前のように地方党員やサポーターも参加する代表選にする方針のため「準備や手続きを含め、夏いっぱいかかる」(民進党事務局)ことは確実で、執行部は28日、「9月上旬までに新代表と新執行部を決める」ことを確認した。

蓮舫氏は「新執行部が決まるまで100%以上の力で職務を遂行する」というが、「残務処理の執行部」(民進党幹部)では、第2次政権発足以来の最大のピンチを迎えている安倍1強政権に「一太刀浴びせる」ことは困難。野党がそろって要求している臨時国会も政府が9月中旬以降に先送りすることは確実で「蓮舫氏辞任は、結果的に窮地の安倍政権に塩を送った格好」(首相経験者)でもある。

かばい続けた安倍首相も更迭を余儀なくされた

この蓮舫氏辞任と連鎖する形で、稲田氏も28日午前、首相に辞表を提出し受理された。防衛相は改造まで岸田文雄外相が兼務する。自衛隊南スーダンPKO部隊の「日報隠蔽」問題だけでなく、都議選での「憲法違反発言」など1年足らずの防衛相在任中、失点を重ね続けても稲田氏を擁護し続けた安倍首相――。だが、さすがに「堪忍袋の緒が切れて」(側近)、改造人事直前に"更迭"せざるを得なかったのが実態だろう。

当初、首相は8月3日の内閣改造で稲田氏を交代させるという「逃げ切り」を考えていたとされる。しかし、「日報電子データ」が陸上自衛隊で見つかったことへの省全体の対応を解明するため稲田氏自身が指示した「特別防衛監察」でも、稲田氏と陸上自衛隊幹部の見解が対立した。陸自が出所とみられる「情報漏洩」も相次ぎ、稲田氏が防衛省を統率できない姿を国民の前に露呈したことで、首相も決断を余儀なくされた。辞表を受理した首相は記者団に「任命責任はすべて私にある」と厳しい表情で語った。

稲田氏は首相の「秘蔵っ子」とされ、「首相が要職に就け続けたことで『首相候補への階段』を速足で上ってきた」(自民幹部)ことは事実。それだけに今回の更迭は「泣いて馬謖(ばしょく)を切った」(同)というよりも、「これ以上かばったら、首相の任命責任が倍加する」(長老)との危機感から「首相が自ら引導を渡した」のが実情だろう。

こうしたドタバタ劇の中、27日夜から28日午後にかけてのメデイアの報道ぶりは「稲田辞任」が「蓮舫辞任」を圧倒した。大手紙の28日朝刊の一面トップも「稲田辞任」で「蓮舫辞任」は2番手だった。どちらも、自らがトップに立つ組織を「統率できなかった」ことが理由だが、当面の国政への影響の大きさの「差」が報道にも反映した格好だ。

「加計問題疑惑」など安倍政権の政治姿勢をテーマとした25日の参院予算委閉会中審査では蓮舫氏が稲田氏を「防衛省をしっかり統率できていない」と舌鋒鋭く追及したばかり。その蓮舫氏が27日の辞任会見で「統率力が不足していた」と反省したあたりは「"ブーメラン民進党"を地で行く」(自民幹部)ことにもなった。「首相に対峙する党代表と、内閣の一閣僚という立場の差も無視したメディアの対応」(民進党幹部)は、存在意義まで問われる民進党の党勢衰退を浮き彫りにしている。

絶望的な稲田氏、展望を描ける蓮舫氏

49歳の蓮舫氏と58歳の稲田氏。男性政治家に伍して毅然として振る舞う"男前"の蓮舫氏と、タカ派的言動とは裏腹の「頼りなげな風情で男心をくすぐる」(自民幹部)稲田氏ではキャラクターの違いが際立つ。ただ、「政財界の長老的男性に巧妙に取り入る"爺殺し"」(自民長老)という評価では共通する。

これまでは両氏は、将来の首相候補として名前が挙がる「女性政治家の星」とみられてきた。今回の辞任劇でそろって「ゼロから出直し」を迫られることになるが、どちらも再起への道筋が見えない点も同じだ。

ただ、稲田氏は「もともと首相に気に入られて取り立てられただけ。政治家としての見識のなさを露呈しての辞任で、再起は絶望的」(自民幹部)との厳しい見方が支配的だが、「もう一度、自分に何が足りないかを考え抜く」という蓮舫氏のほうはまだ将来への展望は残る。民進党の「政権交代の受け皿になれる強い党」への再生が絶望視される中、「来るべき政界再編の渦を、政治家としていかに泳ぎ切るか」(民進党長老)が蓮舫氏の当面の課題となりそうだ。

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by amenbou | 2017-07-30 12:58 | ニュース | Trackback | Comments(0)